……目を開けて初めに思ったこと。
『頭が重い』
車内で不可解な眠気に襲われた事は覚えていた。
それが何に寄ってもたらされたのかは未だに不明だが、
取り敢えず、自分が床に寝そべっていることにも気付いていたユーリは起き上がることにした。
周りを見渡すと、そこは学校の教室のようだった。
ついさっき(と言っても寝ていたせいで実際どれぐらい時間が経過しているのかは解らない)まで
バスの中に居た筈なのだが、寝ている間にこの教室に移動させられたようだ。
教室の中には己も含む他の参加者も居た。
既に起きている者が殆どだ。
「あ、ユーリ」
ユーリが起きたことに気に付き、アッシュが声を掛ける。
「なんだ…此処は…」
端的な質問を投げかけてみるものの、アッシュがそれに答えれるわけもなく微かに肩を竦めて答えとした。
異質な空気を辺り一面に漂わせている"教室"に皆動揺を隠せない様子でどことなくソワソワしているように思える。
一体此処は何処なのか、パーティーはどうなったのか…
謎は尽きない。
「D……大丈夫?」
ふと聞こえた声はスマイルのものだった。
自分の包帯を解き、それを暁宗が愛用しているバンドの変わりに巻き付けていた。
どうやら、怪我でもしたらしい。
首から掛かっているバンドが微かに赤黒く変色していた。
「……こっから、早く出ねぇとヤバいかもしんねぇ…」
ポツリと暁宗が漏らした言葉は、ユーリやアッシュ、
スマイルも感じていたもので逃げるという行為は気に食わないものの、矢張り危険なのだと確信した。
突然、教室の扉がガラガラと云う大きな音を立てて開いた。
そして室内に入って来た人物は3人…
ルシファー、ヴィルヘルム、そしてミシェルだ。
起きているものの視線は全て彼らに向けられ、未だ寝ている人物も他の者に起こされ、
本当に全て…37名の視線が集中した。
「皆さんお早う御座います。良くお眠りになられましたか?」
「これは…どういう事ですか。私達は、パーティーに招待されたのではなかったのですか?」
ミシェルが口を開くとそれに続くように恐る恐る、皆の意見を代弁して文彦が発言した。
「ええ、これはパーティーですよ?」
きょとんと瞳を見開きながらミシェルが返す。
それは文彦の言葉を簡単に肯定していた。
ということは、まさか此処が本当にパーティー会場なのだろうか?
だがしかし、それは直ぐにミシェルの一言で裏切られる。
「此処は殺戮パーティーの会場です」
にっこりと、何がそんなにも愉しいのかミシェルは笑みで返す。
次第に室内がざわついていく…。
「ハイハイ、静かにして下さいねぇ。説明始めますよぉ。」
困惑した室内の空気とは裏腹に、ミシェルの妙に間延びした声が響く。
両手を数度叩くと室内は静まって行くも矢張り困惑は増して行くばかりだった。
「ルールは簡単です、まぁアレですよ、世間で話題になったバトルロイヤルですね。
互いに1人になるまで殺しあうんです、簡単でしょう?」
確かに簡単だ。
簡単すぎる程に…、室内の人物たちに憎悪が浮かび始める。
「ただ、武器がないと少々殺し合うには不便だろうと思いまして、
此方で人数分の武器をご用意させていただきました。
…ああ、ですけれど、ハズレなんてものもあるんです。面白いでしょう?」
陽気なミシェルの声が余計に神経を逆撫でる。
「おい」
突然、室内に低温の声が響きわたる。
その声の発信源を探すと、それはユーリだった。
「はい?なんでしょう?」
「何故私たちが選ばれたのだ」
以前変わらず笑みを浮かべるミシェルだが、それを聞くと一瞬だが表情が曇る。
「何故、私やハヤトやディザイヤーが選ばれたのかと訊いている」
一向に返ってこない返事に苛つき、ワザと自分の他にミシェルが好意を寄せている相手の名を挙げていく。
「それは……」
「アンケートだよ、ユーリ」
突然、ミシェル以外の声が室内へと響いた。
声の主は、ルシファーだった。
「アンケート?」
眉間に皺を刻みながらユーリが鸚鵡替えしに問いかけると、ルシファーがそれに答えていく。
「そうだよ、ユーリ。某所でアンケートを実施したのさ。
バトルロイヤルで殺し合って欲しいのは誰か…とね。
皮肉だろう?お前達はお前達の大好きなファンたちによって殺し合うことを余儀なくされたのだよ」
ルシファーの紡いだ言葉は
正に絶句
これは何かの間違いだというようにユーリの口元にはひきつった笑みが浮かんだ。
「面白い冗談だ」
それだけを言うのが精一杯の状態でユーリは笑う。
この性悪の神が嘘など言うはずもないことなど解りきっているのに
どうしても否定して欲しくて、ダメ元の言葉を紡ぐ。
「私は、冗談は好かんよ」
「……ちょっと待ってよ」
ルシファーが否定するとほぼ同時、また他の声が響いた。
酷く、真剣な様子で呟くようなその声はディザイヤーの物だった。
「アンケート…?……冗談じゃないよ、ボクやユーリみたいに
何百年も生きている妖怪は、何時死んだって構わないよ。
でも、でもさ…?セシルは…どうなる…訳……まだ10歳なんだよ…?」
普段から青い顔を更に蒼く変色させて、瞳に絶望を滲ませながらポツリポツリと言葉を発する。
「ディザ」
ディザイヤーが喋るのを止め様としてかユーリが彼の名を呼ぶがディザイヤーは一向に
止まる気配を見せない。
「セシル以外にも、学生の子だって居るし…第一殺し合いだなんて…」
「ディザイヤー!!!!」
言葉が発せられていく度にルシファーの表情が曇っていく。
堪らずに声を荒げてユーリが制止すると漸く我を取り戻したかのように、
ディザイヤーは口を閉じた。
あのもの静かなユーリが声を荒げることなど少なかった。
その効果もあったのだろう…。
ジッとユーリがディザイヤーを睨み付けると、もう口を開く様子は見せなかった。
再度室内に静寂が訪れる………………筈だった。
「わ…わたし、嫌よ?」
震える声。
その持ち主は、アリスだった。
翡翠色の瞳を不安に揺らしながら、恐怖から表情は引き攣り半笑いの状態。
「ま…まだ、沢山やりたいことがあるの、死にたくなんか無いわ…!
まだまだ、沢山…洋服だって欲しいし…っ…他にも……」
バンッ
突然、唐突に
何かの破裂するような音と共にアリスの声は途切れた。
否、途切れるしかなかった。
何故なら、首から上は
もう無くなっているのだから。
「いやぁあぁああああ!!!!」
室内に、ミサキの絶叫が響き渡った。
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