『ヴィルヘルム』
呼び声が屋敷に響く。
それは、聴き慣れてはいたが余り好ましくない声であった。
否、彼……ヴィルヘルムにとっては彼の唯一神以外の声は雑音以外の何物でもないのかも知れない。
クスクス…という人を小馬鹿にするような笑い声と共に次元の隙間から舞い落ちる一枚の羽根。
次第次元から落ちてくる羽根は枚数を増し、やがて一人の男の姿へと集結し、姿を変えた。
薄い紫色の長い髪と同じくして薄い紫の衣服を纏い、男は酷く愉しそうに笑みを浮かべていた。
「…何の用だ、嘆きの神」
嘆きの神と呼ばれた男の名はルシファー。
本来、ルシフェルの深層心理の奥深くに眠る人格なのだが、
それが何故か今日はルシフェルが意識の奥底で眠っているのかルシファーが体を支配していた。
『愉しいゲームを思い付いたのだ……、貴様の力を借りたい』
「断る」
頼むと言っておきながら、全くと言っていいほど清々しく上から物を言うルシファーにきっぱりと拒否を示すヴィルヘルム。
しかしながらルシファーの表情に浮かぶのは笑み。
『沢山の妖魔が死ぬぞ』
ピクリ…
それが鍵だったかのようにヴィルヘルムの表情が変わる。
『妖魔共を殺し合わせるのだ。愉しそうだろう?』
表情の変化を見て取ってか、更に追い打ちを掛けるように続ける。
『きっともの凄く、愉しいぞ…』
――――退屈など、忘れるほどにな
序章…完